2002年7月の感想






デイヴィッド・ピース 『1980ハンター』 早川文庫 2002年7月3日 (購入)



1974ジョーカー1977リッパーに続くヨークシャー四部作の3作目。1977リッパーにちらりと登場したピーター・ハンターが主人公だ。もしかしたら、そうやって悲劇の主人公がバトンタッチされていくのかもしれない。小説中に登場するヨークシャー・リッパー(サトクリフ)などは実在の人物で、そのせいで追求を甘くせざるを得ないところがあるのか、話全体がわかりづらくなる。その、わかりづらさがエルロイのLA四部作では自然だったけれど、この作品では非常にわざとらしく感じる。わざとらしく混乱させないですっきり書いて欲しいと思うのは私だけだろうか。だけど、読む方書く方どちらが慣れてきたのかわからないけれど、前2作よりは読み応えがあって面白かった。それに悪夢に魘される主人公も魅力的だったと思う。あんまり続きを読みたい気分でもないけれど、ローズ牧師の正体など気になる点もあるので、次作もきっと読むのだろう。そんな自分に腹が立って仕方ない。

 → bk1 skysoft


C・S・ルイス 『沈黙の惑星を離れて』 原書房 2002年7月8日 (図書館)
C・S・ルイス 『ヴィーナスへの旅』 原書房 2002年7月12日 (図書館)
C・S・ルイス 『いまわしき砦の戦い』 原書房 2002年7月19日 (図書館)



ナルニア国物語シリーズの著者の書いた別世界物語ともSF三部作とも言われるファンタジー。ナルニアよりも宗教色が濃く、全体に宗教問答のようなところが多く、キリスト教をよく知らない私にはとても難しい本だった。SFといわれるけれど、SFらしいのは一作目の「沈黙の惑星を離れて」だけでこれが一番読みやすかった。それにこの作品の訴えかけるものは私でも納得がいくのだ。でも、ヴィーナスへの旅、いまわしき砦の戦いと読み進むうちに、ルイスが訴えかける価値観が鼻持ちならなく思えてきた。そうはいっても、この著者の一生がどんなものだったのか非常に興味のわく作品だと思う。



トマス・H・クック 『過去をなくした女』 文春文庫 2002年7月25日 (図書館)



クレモンズシリーズの二作目。「
だれも知らない女」で知り合ったカレンを追って、ニューヨークに住み着いたクレモンズは私立探偵を始めた。そして、カレンと出かけたパーティで知り合ったデザイナーから殺されたハンナという部下の身元を探して欲しいという依頼が舞い込んだ。自分の痕跡を消し去ろうとしていたハンナの過去を、バーで知り合ったファルークという男と共に調査を進めるうちに世界恐慌時の繊維業界のストライキにたどり着く。

クレモンズから幸せが逃げていくのに、彼はそれを絶対に追おうとはしない。これに苛立ちつつも、ハンナだけではなく依頼人のクリーンとは言えない過去になんともいえない悲しさを感じる。一作目のケーレブとのシーンほどではないけれど、最後のファルークとのシーンも魅力的だと思った。



トマス・H・クック 『夜たずねてきた女』 文春文庫 2002年7月27日 (図書館)



クレモンズシリーズの3作目。ファルークが占い師のところに行くのにつき合ったフランクは、そこで会ったジプシーの女にどうしようもなく惹かれてしまう。彼女に殺人容疑がかかったことを知ったフランクは、昼には気の進まない仕事、そして夜は彼女の無実をはらすために働き始める。

フランクの周囲の三人の女、元妻、元恋人、今惹かれる女が対照的で面白い。そして、最後にフランクが選んだ道は、本当に彼にとって準備万端であったのか疑問を感じるけれど、こういう結末も悪くないのかもしれない。



箒木蓬生 『エンブリオ』 集英社 2002年7月29日 (購入)



SFじみたところもある生殖医療に関する問題小説なのかもしれない。主人公が正常なのか異常なのか、主人公が行う医療のどこまでが正しいものなのか、読めば読むほどわからなくて気持ちが悪くなってくるのだ。愛人を簡単に殺し、裏切りそうな腹心については裏切る前に消す段取りをつけ、自分や愛人の精子や卵子をおもちゃのように扱い、ホームレスを実験動物扱いする一方で、不妊治療に成功した夫婦の喜びに涙する。主人公の医師としての喜びが果たして、人間らしいものなのか読めば読むほどわからなくなるのが、気持ち悪さの原因なのかもしれない。何かを選択する時何かを失うことと、何かを選択する時何かを奪い取ったり犠牲にするのとは別のことなのではないだろうか。問題提起はするものの、結論は読み手が判断するしかないという結末は悪くないと思うのだけど。 。



乙一 『GOTH』 角川書店 2002年7月31日 (購入)



死体や殺人現場を見ることが趣味の少年と、彼の同類である少女を主人公とした連作短編集。中盤までだいぶ油断して読んでいたせいか、最後の2つぐらいで突然足下をすくわれたような気持ちになった。見ているだけで済ませられるのか、それともいずれ領域を超えてしまうのか、そんなセリフを読むと暗澹とした気持ちにさせられる。死を見つめながら死を生み出す人間に自分を成長させていける人は本当にこの世にいるのだろうか。できればいて欲しくない。