2002年8月の感想






ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 『わたしが幽霊だった時』 創元推理文庫 2002年8月3日 (古本)



ふと気づいたら自分が幽霊になっていた少女が、過去と現在を行き来して、自分の未来を取り戻して過去と和解するファンタジー。子供時代に心当たりのある残酷さ、思春期を思い出した時穴があったら入りたくなる気持ち、そういう目を覆いたいところが上手に描かれていて侮れない。フィリスが最後に駆けつけるシーンでやっとほっとすることができた。ファンタジーチックな仕掛けや、幽霊となったいきさつなんかは、はっきりいって頭にもやがかかっているように理解しづらかったけれど、ごくごく当たり前の少女の成長物語として興味深かった。



北村 薫 『リセット』 新潮社 2002年8月4日 (図書館)



スキップターンに続く時間に関連する三部作の最終作品。こんなに静かに戦前・戦中・戦後の描写をしてある小説は珍しいし、とても上手な気がする。第一部の雰囲気は本当に大好きだ。でも、なんかあまりにも美しい心の恋愛小説で、個人的にはやや苦手だ。というのは、女性の理想型、恋愛の理想型があまりにも心に痛いからだろうと思う。



ウイリアム・ゴールディング 『我が町、ぼくを呼ぶ声』 集英社文庫 2002年8月6日 (図書館)



「蠅の王」の作者によるほろ苦い青春小説。どちらかというと青春まっさかりの人よりももう青春を通り越した人のためのものかもしれない。「蠅の王」という作品は読んだ時は衝撃的に感じただけで全然好きになれなかったのだけれど、同じ作者の違う作品を見つけたらなぜか読みたくなって借りてきてしまった。私としてはかなり秀作という印象だ。大人ぶって悪女ぶっている傷ついた少女と、ある意味残酷でいかにもその年頃の男の子っぽい主人公の話。そして、主人公が音楽を習い諦める話の二部構成になっていて、繋がりが読解力の無い私には非常に散漫に感じるのだけれど、同一主人公の連作として読むとなかなか興味深い。



岩井志麻子 『魔羅節』 新潮社 2002年8月6日 (図書館)



ホラー短編集。個人的には死体と寝たがるトヨの話が好きかもしれない。いかにも岩井さんという雰囲気で安心して読めるけれど、筋が私にはいまいちわからないものもあった。



乙一 『きみにしか聞こえない』 角川スニーカー文庫 2002年8月10日 (購入)



爽やかで切なくて可愛い短編集。特に表題作はこの文庫のターゲット年令の時に読みたかった作品だと思う。よく考えると特に甘いお話ではないのだけれど、雰囲気がなんともみずみずしい感じがする。表題作の少年の行動はできすぎだとも思うのだけど、それを感じさせないようなパワーがある。気に入ったところを書くと思い切りネタばれなのが残念だ。



グレッグ・イーガン 『宇宙消失』 創元SF文庫 2002年8月10日 (図書館)



ある日、銀河系はバブルと言われるもので覆われてしまい、星が一つも見えなくなってしまう。その世界で暮らす主人公は、自分では動けないはずのローラという女性を探す依頼を受けて調査を開始する。そして、思いがけずバブルの謎について知ることになる。

物語に登場する、脳味噌にそのままコンピュータやコンピュータソフトを繋いでしまうようなモッドというものが印象的だ。似たようなものを他の小説や漫画で見たりしたことがあるはずなのに、モッドを接続するというような文章が出てくるたびに、後頭部がうずくような気持ち悪い感覚に襲われる。たぶん、バブルの要因としている、波動係数と人間の知覚の関係もそれに拍車をかけているのかもしれない。特に何を感じ入るというわけではないのだけれど、なんとも果てしなくて自分の足が中に浮いているような不安な感覚になるのが怖いようで気に入ったかもしれない。



藤本ひとみ 『ジャンヌ・ダルク暗殺』 講談社 2002年8月11日 (図書館)



聖女と娼婦という二人のジャンヌを対照させた作りになっているジャンヌ・ダルクもの。女性が書いているだけあって、ジャンヌもので典型的に感じるジャンヌ・ダルクのヒステリーの書き方がナチュラルで穏やかで読みやすかった。何より、娼婦のジャンヌという登場人物に魅力を感じてしまった。ジル・ド・レやアルチュールというハンサム(死語ですね)な男の造形もいかにも藤本さんらしくて興味深い。他のジャンヌもの(いくつも読んでいるわけではないけど)と比べると、後から読んだせいもあっていまいち印象が薄いのだけれど、読んでいる感覚的にはそれほど悪くもない。よくもないのだけれど。



乙一 『失踪HOLIDAY』 角川スニーカー文庫 2002年8月12日 (購入)



ちょっと
暗いところで待ち合わせと似たところのある「しあわせは子猫のかたち」と、かなり漫画チックな「失踪HOLIDAY」の二作が収録されている。どっちも優しいタッチの可愛いお話で、途中から結末は見え見えなのだけどそれでも読んでいて楽しめるところがすごい。なんというか、何度も読み返す好きな漫画本や絵本という感じかもしれない。どちらかというと、もっと暗い話の方が私は好きなので物足りないのだけれどこれもありかもしれない。



板東眞砂子 『わたし』 角川書店 2002年8月14日 (図書館)



亡くなった人のみが、自分の中で生きている。
自分は外界の刺激に不感症である。
そんなわたしという女の少女時代から40代ぐらいまでを一人称で書いた小説。

時々、どうして生きているのだろうとか、生きているのはなぜなんだろうと思うことはある。時々、人間らしい感情がないのではないかと自分を疑うことがある。そういう気持ちを思い出させつつ、何か知らないけれど怒りの感情に支配される物語だ。「わたし」という女性に何かをわめき散らしたいけれど、何を言ったらいいのかわからなくてもどかしい。



デニス・ルヘイン 『ミスティック・リバー』 早川書房 2002年8月23日 (図書館)



あの車に自分が乗っていたら、こんな自分だっただろうか?とジミーとショーン。
あの車に乗らなかったことにしたいデイヴ。
そんな三人が大人になった時、また悲劇は繰り返された。
子供のころのジミーとショーンの選択はともかく、ジミーの行為のいくつかに許せないものを感じるし、ショーンにもデイヴにも絶えずどうしてわざわざ不幸を選択するのだろうとイライラさせられるのだけれど、この物語が好きでたまらない。そして、ジミーの妻のアナベスと、ショーンの妻のローレンがたまらなくいい女だとも思うのだ。ただ、結末のせつなさと彼らをめぐる人生の凄惨さ、それをある意味美しく書き上げてしまっているこの物語は人によってはものすごい嫌悪を感じるのかもしれない。




ダレン・シャン 『ダレン・シャン〜奇怪なサーカス』 小学館 2002年8月26日 (購入)



子供向けのヴァンパイアもの。ハリー・ポッターの作者も絶賛らしい。フリークのサーカスのチケットを偶然手に入れた主人公のダレンと親友のスティーブは親には内緒で見に行くが、それをきっかけにダレンは一生を取り返しのつかないものとしてしまう。ヴァンパイアがスティーブに言った言葉、スティーブという登場人物の造形、半ヴァンパイアとなってしまった主人公の葛藤は上手にかけているのだけど、主人公がヴァンパイアになる時の選択が汚れた大人には嘘臭く感じる。でも、子供とか綺麗な心の持ち主なら、流れ的には納得できるし、素直に自分にはそういう選択ができるかどうか悩めるかもしれないとも思う。



マイク・レズニック 『キリンヤガ』 早川SF文庫 2002年8月27日 (図書館)



ケニアのキクユ族の理想郷「キリンヤガ」の創始者の一人であり、そこでの祈祷師であるコリバを主人公が、伝統を守る形でスタートしたキリンヤガで次々と起こる変化と戦っていく様子を描く連作短編。いろいろな問題提起がされているたぶんよくできたSFなのだけれど、大人になりきれない馬鹿な主人公が、別れた妻を必死で否定し、彼の周囲の人々を次々に妻に見立てて復讐するというお話にしか感じられず、読んでいて非常に不愉快だった。でも、何年経っても、ほんの少しずつしか学ぶことができない頑固な老人の悲劇や滑稽さを楽しめるほど大人であるなら、かなり面白いと思うかもしれない。



F・ポール・ウィルスン 『異界への扉』 扶桑社文庫 2002年8月30日 (購入)



始末屋ジャックのシリーズ邦訳最新作。思わず張り切って買ってきたけれど、今回は父や兄との関係での弱さ、恋人とその娘を危険に遭わせたくないという気持ちからくる弱さが強調されてかなりなさけないので、かっこよさを楽しむには物足りない。ただ、なぜ、
ナイト・ワールドに恋人やその娘ともども登場したのかの謎に繋がる鍵があるんじゃないかと思う。このシリーズが完結するまでナイトワールドのシリーズともども手元に全部おかないと駄目かも。。。。。