2002年9月の感想
ニック・ホーンビィ 『アバウト・ア・ボーイ』 集英社文庫 2002年9月1日 (購入)
親の財産を食いつぶして、だらだらと生きている明るい駄目男ウィルと、鬱病の母親といじめに悩む12才の少年マーカスの成長(?)物語。鬱病で、人の話を一切聞こうとしないマーカスの母親(知り合いに似てるし)に本気でぶち切れそうになったけれど、とにかくウィルとマーカスがなんとも優しくて可愛くて救われる。こういう母親は私は少なくないんじゃないかと思う。子供たちがみんなマーカスのような幸運と、強さを手に入れられるといいなと思う。連鎖が永久に続くなんて悲しすぎるから。
宇江佐真理 『深川恋物語』 集英社文庫 2002年9月3日 (購入)
収録作品:
下駄屋おけい
がたくり橋は渡らない
凧、凧、揚がれ
さびしい水音
仙台堀
深川を舞台にした時代ものの短編集。しっとりとした恋物語なのに清楚な雰囲気だ。さびしい水音の女流画家がかく「わじるし(春画のことらしい)」とちょっとだけ重なる。たぶん、昔だったら、微笑ましくて安心して読める「下駄屋おけい」か少女が主人公のちょっと悲しい「凧、凧、揚がれ」という短編が好きだったと思う。で、妙に前向きな時期なら間違いなく「がたくり橋は渉らない」が私の好みのはずだ。だけど、本来なら一番嫌いな物語である「仙台堀」に異常に感情移入してしまった。迷うのは、心が他にある証拠なのだと涙ぐんでしまった。
五條 瑛 『熱氷』 講談社 2002年9月4日 (購入)
- 氷山ハンターである石澤が勝手にテロリストに仕立て上げられる、ある登場人物によって書かれるルポ「テロリストの系譜」と、その現実が交互に書かれる形式の小説。石澤親子や光晴、スワローやグースに感情移入すると、このテロリストの系譜が猛烈に腹の立つ文章で、とにかくその苛立ちから逃れたい一心なのか、異常にのめりこんだ。久しぶりに夜更かしして家で読んだほどだ。特に絶賛したいような要素は見つけられないけど、こんなにのめりこめるってことはきっと面白いのだと思う。小説中に出てくる架空の総理大臣やタレント政治家像とかに効いている風刺も好感がもてて、個人的には嫌な要素がほとんどない優良な娯楽小説だと思う。
岩井志麻子 『がふいしんじゅう』 角川書店 2002年9月9日 (図書館)
- 収録作品:
はでつくり
がふいしんぢゆう
シネマトグラフ
みまはり
いろよきへんじ
ちんけな男と怖い女の滑稽でどろどろした短編集。熊のような大男のくせに小心者のおまわりさんの話である「みまはり」が個人的には可愛くてお気に入り。認めたくない弱い部分が滑稽では済まされなくなるのが「はでつくり」や「がふいしんぢゅう」だとしたら、吉と出るのが「みまわり」、昇華するのが「いろよきへんじ」なのかもしれない。
坂東眞砂子 『善魂宿』 新潮社 2002年9月10日 (図書館)
- 持てば持つほど、背負うべき業も深くなる。
持てば持つほど、満たされない。
飛騨高山の山奥で暮らす母と息子は、旅人が迷い込んでくるたびに宿を貸し、彼らの話を聞く。その話を軸にする短編としても読めるし、後半で明らかになる母と息子の謎も楽しめる作りになっている。前半部分では蛭の話のやるせなさ、後半部分では最後の餅のなる木の話の摩訶不思議さが特に印象的だ。
ジェーン・オースティン 『高慢と偏見(上・下)』 岩波文庫 2002年9月16日 (図書館)
- ブリジット・ジョーンズの日記に出てきてから興味があったのですが、ようやく図書館で見つけました。田舎の裕福な名家ベネット家の娘たちの結婚物語だそうで、恋愛部分はいまいち古くさくてわざとらしくてつまらなかったけど、出てくる登場人物が本当に個性的でどこかにいそうで楽しめました。特に、ベネット夫人の滑稽さは秀逸で、エリザベスとジェーンが気の毒過ぎてイライラしてむかつくけど、かなり笑えました。
板東眞砂子 『神祭』 岩波書店 2002年9月20日 (図書館)
- 土佐の呪術的世界を描いた短編集だそうです。短編集はあんまり好きではないのですが、表題作をぱらぱらとめくったら、面白そうだったので読むことにしました。個人的には「隠れ山」という話が不思議で滑稽で気に入りました。微妙に真実が混じった大袈裟な話を広める神隠しに遭った男というモチーフの面白さと、浮気の噂だけはいつまでも村から消えないという皮肉さがなんともいえません。
恩田 陸 『劫尽童女』 光文社 2002年9月21日 (図書館)
- なんとなく、クーンツのウォッチャーズを彷彿とさせる犬と少女の物語。犬だけではなく少女の方も超人であり、彼女の成長に従って、なんとも青臭い雰囲気が漂う。夢中に楽しく読める娯楽小説だったら、まさに私の好みなのだけれど、変に復讐だの世界を滅ぼすだのという要素が入り込んできて、それが時代遅れのSFみたいなところが薄っぺらくて個人的には興ざめだった。そこがいいところなのかもしれないし、別につまらなかったわけではない。
牧野 修 『傀儡后』 早川書房 2002年9月27日 (図書館)
- 大阪に隕石が落ちて以来、麗腐病という奇怪な病気や、危険なドラッグが蔓延し始めた。その中で、親子の憎み合いや、冷酷な少年といういかにもなモチーフも描かれたSF娯楽作品(?)。半分ぐらいまではものすごく面白かったのに、世界が滅びる部分と表題の傀儡后の住む世界が安っぽく感じられてしまった。でも、もしかしたら、その最後の部分が個人的に理解不能だっただけなのかもしれない。
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