2002年10月の感想
室積 光 『都立水商』 小学館 2002年10月07日 (図書館)
- 水商売を教える都立高校が設立され、そこに配属された教師が故郷に帰る前に回想する形で語られるファンタジーっぽい小説。夢と理想の色合いがものすごく濃いけれど、細部には妙なリアリティも感じられる。あまりにもいろんなことがうまく行き過ぎるのが非常にむかつくし、やはり男性の視点なのでカチンとくるところが随所にあるけれど、よくできていて読みやすかった。むかむかする割にはかなり好きな感じだ。
イアン・マキューアン 『セメント・ガーデン』 早川書房 2002年10月08日 (図書館)
- 近親相姦や死体遺棄といったショッキングな場面もあるのに、文学的かつ妙に美しい雰囲気なのが少し怖い。美しいとはいっても、耽美というには乾いた感じだったと思う。全体的にリアリティのある少年少女の言動ですごく腑に落ちるのに、生々しさがあまり感じられないのが不思議だ。けれど、主人公の少年の不潔さだけが臭ってくるようだった。
ベルンハルト・シュリンク&ヴァルター・ポップ 『ゼルプの裁き』 小学館 2002年10月13日 (図書館)
- ライン化学工業の会長である親友に、ハッカー事件の捜査を依頼された私立探偵ゼルプは、自分の忘れたい過去と対面し、知らなかった現実に打ちのめされる。ナチス問題なんかも描かれているのだけれど、なんだか不謹慎な感じを受けてしまう。ドイツの人がどう感じているのか、そして日本のこういった小説を外国の人が読んだらどう感じるのか考えさせられてしまった。
イアン・マキューアン 『最初の恋、最後の儀式』 早川書房 2002年10月16日 (図書館)
- 平たく言えば、同じような青臭く乾いた感じの妙に美しい雰囲気の短編集で、セメント・ガーデンと比べて、目新しいものを感じるわけではないのだけれど、安心して雰囲気に浸れる。新しい短編を読むごとに読み終わったものに印象が塗り替えられてしまって、いまいち全編の感想を言いづらいのだけれど、「装い」と「押入れ男は語る」はタイプが似ていて、どっちも読みやすかった。
加門七海 『蠱』 集英社 2002年10月13日 (図書館)
- 民俗学専攻で怪談好きな御崎教授が脇役で登場する連作短編集。もしかしたらホラー小説なのかも。時間軸とかどこまでが小説の世界では現実なのか、どうしても混乱してしまう小説は好きではないのだけれど楽しく読めた。即身仏とミイラの話である桃源郷が結構気に入った(一番わかりやすかっただけかも)。
イアン・マキューアン 『異邦人たちの慰め』 早川書房 2002年10月19日 (図書館)
- 結婚してない恋人たちは旅先で毎日迷子になっていた。そして、ある男に出会い、その家に無理矢理招待される。男の妻は体が不自由で始終怯えたような目をしていた。結末がはっきり書かれていないことで、よけい陰惨な想像をかきたてられる。
よくわからない部分も多かったけれど、暗くて乾いた雰囲気に思いきり浸れた。何を作者が訴えたいかも全然わからないけれど、それでもゆったり読める不思議な長編だと思う。
恩田 陸 『図書館の海』 新潮社 2002年10月19日 (図書館)
- 六番目の小夜子の登場人物と関係のある表題作をはじめとする短編集。収録作品は、
春よ、こい
茶色の小壜
イサオ・オサリヴァンを捜して
睡蓮
ある映画の記憶
ピクニックの準備
国境の南
オデュッセイア
図書室の海
個人的には、お涙頂戴だけど「春よ、こい」が気に入った。「イサオ・オサリヴァンを探して」はネットで読んだのだけれど、紙に印刷されるとまた印象が違って不思議だった。恩田陸はこういう短編を読んで、さぞや素晴らしい長編を書くんだろうなあと妄想するのが今のところ一番正しい楽しみ方かも。
J・K・ローリング 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット(上・下)』 静山社 2002年10月24日 (購入)
- 無駄に長いのではないかと読む前は心配していたけれど、そうでもありませんでした。面白くて一気読みしたのですが、なんとなく大味に感じてしまって、いざ感想を書こうと思うと感動ってやつが心に残っていません。強いて言えば、ハリーとヴォルデモートの対決が一番の見せ場かもしれないのだけれど、私は優勝カップを前にしたセドリックが葛藤するところと、ロンがハリーに引け目を感じたり嫉妬してしまう部分が好きです。あと、ネビルやスネイプ先生、ハグリッドの過去なども興味深いです。相変わらず、ハリーのお金の取り扱い方(双子はあれで納得したんだと思えないのは私だけですか?忘れていたなんて言葉でロンが納得するわけないと思ったのは私だけですか?)や、ホグワーツの食生活など虫が好かないところも非常に多いのに、ウィーズリー一家がダーズリー一家を訪問するシーンや、再登場するドビーの服装のセンスなどにしっかり笑って、お涙頂戴シーンではぼろぼろ泣いてしまいました(でも何に泣いたかは覚えていないです)。既に5巻が読みたくていても立ってもいられない気分です。その原因は、ヴォルデモートの変化をハリーに聞いたダンブルドア校長がほほえんだからです。あれはハリーの錯覚なのか、それともって思うとあと1年がまた苦痛になりそうです。
リリアン・J・ブラウン 『猫はチーズをねだる』 早川文庫 2002年10月25日 (古本)
- このシリーズはココとヤムヤムのかわいらしさにめろめろになって、料理の描写に腹を減らすのだけに専念して楽しむことにしているのだけれど、今回はあんまりミステリ部分の幼稚さとかを感じなかった。謎の女の素顔がなんだかすごく可愛い。パスティって食べ物にもすっかり興味津々だ。
京極夏彦 『どすこい(安)』 集英社 2002年10月28日 (図書館)
- 相撲と赤穂浪士をモチーフに使った代表的なミステリのパロディの短編集のようだ。やけに47士の47と相撲の48手の48という数字にこだわるところで何度も吹き出してしまった。好き嫌いはものすごく分かれそうだけれど、個人的には好きなタイプの笑いが多かった。ウロボロスの基礎代謝に大好きな貫井徳郎さんが登場するだけでも読む価値があったし(おい、こら)、あとがきもいつだかNHKのトップランナーでみた京極さんとだぶって、ミーハーな意味でも楽しめる。
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