2002年11月の感想
京極夏彦 『ルー・ガルー』 徳間書店 2002年11月01日 (図書館)
- 人類が生き物を食べる食物連鎖からも遠ざかってしまっている近未来で、同じくらいの年の少年少女が殺される連続殺人が起こる。そして、その真相に近づいてしまったカウンセラーと窓際族の刑事、4人の少女たちの身に危険が迫る。ネットでのリサーチなども元にして書かれたSFなのだろうか?
誰があやしいかとか、結論は中盤の段階でかなり見え見え(全部は推測不能だけど)わかってしまうのだけれど、主要登場人物の女の子たちがとにかく魅力的だ。一人だけ登場したら、腹が立って仕方ない葉月という少女やヒステリックなカウンセラーの不破も、美緒や歩未、麗猫といった他の少女との対比で魅力が際だつ。よく考えると殺伐とした設定なのだけれど、著者はまだ人間はそれほど嫌いじゃないという感じがするところと、哲学的な概念も押しつけがましくないところもよかった。
ピーター・ストラウブ 『スロート(上・下)』 扶桑社 2002年11月14日 (図書館)
- ミステリー(上・下)、ココ(上・下)に続くブルー・ローズ三部作の完結編。ココのティム・アンダーヒル、ミステリーのトム・パスモアが登場し、二人の過去、ベトナム戦争が同一でない時間軸で語られる。視覚だけではなく、嗅覚や触覚に訴える部分が多く、感覚的にも世界にのめり込めた。不幸な子供時代、陰惨なベトナム戦争、その中で心が死んでしまった男たちのそれぞれの生き様がせつない。負けたり、なんとなく勝ったりしている生き方はどれも歯がゆいようで、責めることのできない必然性に満ちている。
山本文緒 『落花流水』 集英社 2002年11月14日 (図書館)
- 祖母、母、娘3代の女性が登場する連作短編集。歴史は繰り返すというべきか、母親のようにはなりたくないと思いつつ、同じような男で失敗していく律子、手毬、姫乃の3人が面白い。ものすごく嫌な感じのする話なのに、読み始めたら止まらなかった。自分がまともになれないことを親のせいにしたら、つまらない話になってしまうのだけど、出てくる女性はそれぞれ駄目な自分を達観しているのがちょっと爽快だ。
クライヴ・バーカー 『ヘルバウンド・ハート』 集英社文庫 2002年11月15日 (古本)
- 映画「ヘルレイザー」の原作で、もとは「魔導士」という題名だったらしい。魔導士の悦楽と、人間の男が考える悦楽は違うとか、魔導士によって異常に感覚が鋭くなった男が自分が見聞きしたものを表現するところなどがどうにも頭から離れない。映画も見てみたい。
藤堂志津子 『アカシア香る』 新潮社 2002年11月17日 (図書館)
- 母の死をきっかけにあらゆることに気力をなくした45歳の女性が、母校の管理人をしながら、かつての同級生たちとふれあい、かつての恋人や同僚との関係を見つめなおしていく。45歳という年齢のいろんなタイプの人々が登場し、その描写の細やかさが魅力的だ。でも、ヒロインの頑固さがどうにも気に入らなくていらいらしてしまう。それがまだ自分がその年齢ではないからなのか、単にこういうタイプの人が嫌いなのか、図りかねるところがなんとなく腹が立つ。あと、ヒロインがかつての不倫相手の息子や妻と対面するところが異常に胡散臭く感じてしまうのはなぜだろうか?私はいやなやつである平川の気持ちが一番納得いくのだけれど。
ピーター・ストラウブ 『扉のない家』 扶桑社 2002年11月21日 (図書館)
- スロートに登場するティム・アンダーヒルが小説中で書いたとされているブルー・ローズ、レダマの木を含むホラー短編集。あとがきによると、ストラウブは人の心の中に潜んでいるものが一番怖いというホラーを書くという。ブルー・ローズとレダマの木は特にそれが顕著だと思う。中でも一番印象に残ったのはバッファロー・ハンターというお話だ。哺乳瓶がきっかけで本の世界に入り込む男が登場する。チャンドラーのハードボイルドは苦手だし、アンナ・カレーニナも挫折した本なのだけれど、もう一回挑戦してみたいと少しだけ思った。転落のきざしが見えるやいなや、至福の表情を浮かべて破滅するのはある意味幸せなのかもしれない。
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