2003年7月の感想






戸川昌子 『猟人日記』 出版芸術社 2003年7月04日 (購入)

耽美で異国情緒のある不思議な雰囲気のあるミステリ。女を狩りの対象としてしか見られないと思われる男前な本田一郎を取り巻く鬱屈した女性の性格の造形はなかなか面白いのだけど何かとても無理矢理な感じのするストーリー展開だった。予想通りにどんでん返し(内容は予想通りでもなかったけれど)が最後に起こるのは、「大いなる幻影」と同じ発想なのだなと思ってしまった。でも、ミステリというよりは時代や風俗を感じるロマンスとして読むものなのかもしれない。



戸川昌子/佐賀潜 『大いなる幻影・華やかな死体』 講談社文庫 2003年7月09日 (購入)

同潤会アパートの特集番組を見ていた時、大塚女子アパートのところで戸川昌子さんがゲストで出演していて、それを見ていたらどうしても女子アパートを舞台にした「大いなる幻影」が読みたくなったのでいろいろ調べて取り寄せた。

大いなる幻影:同潤会アパートの映像が甦ってくるような描写と、一人さびしく暮らす一癖もふた癖もある女性たちの造形はすばらしいと思う。面白いんだけど一味足りない。でも何が足りないかと聞かれるとわからない。手法はともかく古いなーという感じでもないし。

華やかな死体:千葉県市川市の国府台付近がモデルになっていて親しみやすいのと、レトロな雰囲気も好きなのだけど、とにかく読みづらい小説で通して読むのが途中からものすごく苦痛だった。何が苦痛かというと裁判で何が起こってるかがわかりづらいことだ。著者にしてはきっと常識で、これでも噛み砕いて書いたつもりなのだろうけれど、私には非常に敷居が高い。あの後味の悪さ(当たり前か?)を訴えたかったのだろうけれど、今現在読むとかなり弱い感じがする。



ジム・トンプスン 『真夜中のベルボーイ』 扶桑社 2003年7月10日 (購入)

いかにもトンプスンといった感じの青春暗黒小説らしい。主人公の記憶の改ざんの哀れさと、ジェットコースターみたいに真相や罠が錯綜して面白い。登場する弁護士が父親の味方だったのか主人公が嫌いなだけなのかがわかりづらいのが印象深い。心がこもってないような気もするのだけど、そこがなんとなくお洒落な気がしてやめられない。時々、そういう自分の感性が異常なのではないだろうかとふと思う。



乙一 『ZOO』 集英社 2003年7月12日 (購入)

なんだかとても巧みな感じのする短編集。でも、読み終わって印象に残っているのは「カザリとヨーコ」というお話だけだ。女の子がいじめられる話って多いと思う。そこからの脱出方法はよほどの話以外は無意識に思ったとおりに展開されていくのだけど、予測される結末なのにほろ苦くて鮮やかだ。つい数日前読み終わったばかりだというのに、この話の印象が強かったからなのか、他のお話をまったく覚えていない。



帚木蓬生 『国銅(上・下)』 新潮社 2003年7月14日 (購入)

奈良の大仏を作った名もない男たちの物語。新潮社の新刊案内の2行の文章で結末がわかってしまったにも関わらず、そこに至る過程がすばらしいと思った。実は、帚木さんは逃亡という本で枯れてしまったのだという失礼な考えを持っていたのですごくうれしかった。わくわくするような面白い物語でもないし、安心して読めるほど幸せな物語でもないし、仏教にも関わる部分が出てくるので、人様に薦めたりはしない。だけど、国人が景信にはなむけとしてもらった「心に自分の仏を持て」という言葉、奈良の悲田院で痩せた僧にもらった「仏を作った者が仏だ」という言葉が心に響いた。何より、自分の限界も見えてしまった凡人には国人や黒虫の生き様が悲しくとも幸せで好ましく思えて、陳腐な言葉だけれど素直に感動してしまった。



F・ポール・ウィルスン 『悪夢の秘薬(上・下)』 扶桑社文庫 2003年7月19日 (購入)

始末屋ジャックシリーズ。前作でやっとのことで退治したはずの生き物の血から作られた非常に恐ろしい麻薬(なんか吉田秋生のバナナフィッシュがもっと凶暴になったみたい)をめぐる冒険のようなミステリのようなお話になっている。うっかりシリーズ前作までと「リボーン」を処分してしまったため、若干意味不明だった。このシリーズはタイムリミットがあって、それを抜きにしても単発でジャックの格好よさを堪能できると思ってのだけれど、後半はそうでもなさそうだ。それよりも異界への扉からジャックが格好悪くなっているのがすごく不満だ。全部完結してから通して読み直す必要がありそうなのでまた古本屋で探してこようかなあ。