平成の寅次郎
2001年12月9日 午後10時41分

そこが渡世人のつれぇところよ・・・

寅次郎とは──
渥美清さんが演じた主人公「車寅次郎」は粋で世話好きで話好き。表向きはヤクザな渡世人であるが、困った人を放っておけない四角い顔が特徴の粋な人物である。思った事をずばずば言う反面、惚れた女性に対しては非常にナイーブで誠実な一面もある。いつもユニークな話術で周りの人達を笑わせ、私欲の為に人を蹴落とすという事はできずにどちらかというと損をするタイプである。寅次郎の性格には二面性がある。マドンナや旅先で知り合った人達からは「寅さん」として慕われ、それなりに頼られている。しかし故郷柴又では変わり者のフーテンとして敬遠されており、本人もフーテンらしく振舞っている。そこら辺のアンバランスが実に面白い人物である。どちらも同じ寅次郎であるが、故郷で見せる姿が真の寅次郎だろうか。

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「フーテンの寅」登場──
寅次郎は父親が酔った勢いで女中との間にできた子供で、小さい頃から幸せとは無縁の家庭環境で育っている。そのせいかいつも父親とはケンカばかり。16歳の時に些細な事で父親と大ゲンカをし、頭にきた寅次郎は秀才の兄貴と幼い妹・櫻を残して家を飛び出した。そしていつしか「フーテンの寅」と呼ばれる渡世人となり、日本全国をテキ屋稼業で渡り歩く人生となるのである。寅次郎が再び家に戻るのは家出してから20年後で、何の前触れもなく突然柴又に戻ってきて家族をビックリさせる。「男はつらいよ」の第1作はそういうシーンから始まっている。

寅次郎は人の痛みが良く分かり、人情味に厚みがある。しかし自分の理屈に合わない考え方や物事に対してはすぐに怒り出すという短気な面も持ち合わせている。一見わがままに思える性格であるが、寅次郎には自分のフーテンさを棚に上げて人の事をあれこれ言う悪い癖がある。これは寅次郎の正直な性格が表に出ているだけなのであるが、家族から見るとそんな寅次郎は身勝手なダメ人間に写ってしまうようである。

寅次郎は家族に対してついつい言い過ぎてしまう傾向がある。そういう性格が災いし、いつもちょっとした事で家族といさかいが起こる。いさかいが鎮まりかけた頃には決まって裏の印刷工場のタコ社長が一言余計な事を言ってしまう。これが元でまたいさかいが始まるという流れになる。いさかいをしている時は誰も寅次郎の味方をしてくれず、おいちゃんから「今のは寅が悪い!」などと怒鳴られ、結局寅次郎は家を飛び出す事になる。しかし妹・櫻だけは最後まで寅次郎の事を気遣ってくれる。家を出る事を除けばこれらはどこの家でもあるような事である。寅次郎は自分の家ではついつい本音を隠さず言ってしまう為にいさかいに発展するが、いさかいの後は何事もなかったように普通の関係に戻る。誇張されているかもしれないが、これが真の家族ではないかと思う。そういう意味ではこの気持ちの良いいさかいシーンは家族愛の表現の一つなのかもしれない。

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寅次郎とマドンナ──
寅次郎は数多くの女性と接してきたが、とうとう最後まで独身だった。特にマドンナ・リリー(第11,15,25,48作に出演)は唯一本音で話せるマドンナであったが、いつもぎりぎりのところで破綻してしまう。寅次郎は本来であれば所帯を持ちだんご屋「とらや」(後半「くるまや」)の後を継ぐべきである。いつも故郷柴又の事が頭から離れず、家族を想う気持ちで一杯の寅次郎であるが、どうしても所帯を持つ事ができない。

寅次郎に恋愛感情を持ったマドンナは何人かいたが、そんな時は決まって寅次郎の方が逃げ腰になってしまう。相手の気持ちを冗談話として受け止めたり、自分にはその気がないなどと言ってみたり、結局自分の方からダメにしてしまう。その理由は、寅次郎の恋愛とは相手に惚れる事であり、決して惚れた相手を独占したり、またいっしょに安住するといった事が目的ではないからである。つまり、恋する事そのものが目的であり、恋が成立しそうになると自ら身を引いてしまうという事である。たとえ安住したい気持ちがあったとしても渡世人の寅次郎にはそれができない。惚れた相手との距離が近づくに連れお互いの住む世界の違いを感じ、そこが引き際となるのである。これは無い物ねだりの"純愛"と言うべきなのだろうか。

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男の"美学"──
寅次郎の恋が成立しないのは表面上の事であり、喜劇とは別な意味で実はそこには日本人的な"美"が隠されているのではないかと思う。例えば「男は引き際が肝心だ」というような事である。寅次郎が所帯を持つと物語が成立しなくなるという事は容易に想像できる。しかし所帯を持つシナリオを面白おかしく表現できたとしても、寅次郎らしい"男の美学" の表現が半減してしまうのは間違いないだろう。


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時代おくれのドンキホーテ
人呼んで平成の寅次郎と発します・・・。
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